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新英語教育研究会神奈川支部HP

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冬の散歩道 サイモン&ガーファンクル

第171回
The New English Classroom 2012/2

冬の散歩道 A Hazy Shade of Winter
♪サイモン&ガーファンクル(Simon & Garfunkel)

 私の視点で,サイモン&ガーファンクルの曲の特徴を3つ挙げるならば「キリスト教文化の入った歌詞」「詩情あふれる描写」「rhyme(ライム:押韻・脚韻)を優先した作詞」でしょうか。今回ご紹介する曲にはその特徴があらわれています。

1)キリスト教文化の入った歌詞


ほら,救世軍のバンドが聞こえるよ
川岸のほうで。
うまく物事が運びそうだ
計画していたことよりも。
手にはカップを持っていってね。


 救世軍(the Salvation Army)は19 世紀のイギリスでブース大佐が始めた,社会改革を求めるキリスト教の一派です。軍服姿でバンドを組んで賛美歌を歌います。街頭でラッパを吹いて募金を呼びかける「社会鍋」が冬の風物詩として知られています。貧しい人たちに食事を無料で配給することでも有名です。歌詞のCarry your cup in your hand はそのことを指しているのです。
 個人的なことですが,私の曾祖父・伊藤富士雄は昭和初期に日本救世軍の創設者・山室軍平のもとで廃娼運動(ご存じでしょうか? 娼婦を廃業させる運動です)を推進していました。「ひいおじいさんは貧しい東北で口減らしのために身売りされた薄幸な娘さんたちを1,000 人ぐらい助けたそうです。若くして亡くした長女『おりよさん』に重ねて見ていたのかもしれません。救出法は合理的で,どれだけの借金があるか知らずに働かせられていた娼婦たちと雇い主の間に入り,借金額をはっきりさせ,年季明けさせたのです。しかし時にはヤクザの人にボコボコにされ,大怪我したこともありました。一族の誇りです!」と,生徒に話すこともあります。身売りされた少女たちの悲しみや曾祖父の正義感に思いを馳せながら語ると胸が熱くなります。そして人身売買は忘れてはいけない過去であり,形を変えて存在する解決すべき現在の問題なのです。ですからこの歌はこういう話題に触れるための私にとって必須アイテムなのです。

語句解説:a better ride が気になりますが,『オーレックス英和』のa tough ride「苦しい立場」,an easy ride「楽な立場」が参考になります。

2)詩情あふれる描写


時間,時間,時間,僕がどうなっているか見てくれ
自分の可能性を探しているうちに。
僕は気難しかった。

 『チャタレイ夫人の恋人』(D. H. LAWRENCE, LadyChatterley’s Lover)の15 章末の一節,What’s that as flies without wings, your ladyship? Time! Time!(翼が無くて飛ぶのは何? 時間だ,時間だ!)を思い出しました(若者は読まないのかな? 寂しいね…)。まさにTime flies( like an arrow).「光陰矢のごとし」。時が過ぎゆく無常を惜しむ,この歌詞の心情に似ている日本の歌は何かなと考えて思い浮かぶのは,小倉百人一首の小野小町の歌「花の色は うつりにけりな いたずらに わが身よにふる ながめせしまに」(若者は百人一首しないのかな? もったいないね…)。ミスチル(Mr. Children)の「イノセントワールド」の一節,「様々な角度から 物事を見ていたら 自分を見失ってた」も似ていますね。

文法解説:英語の主語の設け方は大別して3つあり,
⒜ ⒝ ⒞の順で不自然になります。
⒜ 人I やYou や動作主を主語にする。
⒝ ことIt(事柄や状況)を仮主語にする。
⒞ もの・無生物を主語にする。者を評価する。



3つのスタイルでパラフレイズするのが私の文法解説の定番。
人 They found it hard to please me.
  彼らは難しいと分かった私を喜ばす…
事 It was hard to please me.
  難しかった私を喜ばす…
者 I was hard to please.
  私は難がたかった喜ばし…

参考:Now you’re not hard to understand.(あなたのことは理解できるわ)という歌詞がオリヴィア・ニュートン・ジョンの“Have You Never Been Mellow”「そよ風の誘惑」にあります。いや~,このような英詩の美しい描写を心に描く時間を教室で生徒たちと共有したいですね。木々が紅葉し,落ち葉が降り積もっている。かさこそと音を立てながら歩く道すがら,しばし佇たたずんで,風を感じながら物思いにふける。パソコンの前に座り詰めじゃ,イカンね。

例文) ・weave ~ into …「~を…に織り込む」
・weave silk into cloth「絹を布に織る」
・the royal crest woven into the tapestry
「タペストリーに織り込まれた王家の紋章」
『オーレックス英和』

タペストリーと聞くと,キャロル・キングの名盤「つづれおり」を思い出しますが,私が実際に見たことがある有名なタペストリーといえば,パリの中世美術館(www.musee-moyenage.fr)にある「貴婦人と一角獣のタペストリー」(The Lady and the Unicorn,仏語ではLa Dame à la licorne)。素敵な作品です。

3)rhyme(ライム:押韻・脚韻)を優先した作詞
 
季節は景色にともなってうつろう
時間を織ってタペストリーにして…
(時間をタペストリーに織り込んで…)
 
おかしいね,記憶が飛ぶんだ
出版していない歌詞の手書き原稿を見ていると…。
ウォッカとライムを飲んで…

Q: カクテルの「モスコミュール」(ウォッカとライム)を飲んでいるのは何故でしょうか?
質問の答えは,rhyme(ライム:押韻・脚韻)とlime(ライム:柑橘系果物のライム)で押韻するため。韻が踏めないからウィスキーやビールじゃ,ダメなんですね。さて,みなさんもこの歌を聴きながら何か飲み物を片手に来し方行く末に思いを馳せたり,ちょっと冬の街を散歩したりしてみませんか?


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